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脳ドックレポート 2008(13号)

 脳の人間ドック(脳ドック)は1988年(昭和63年)頃より世界に先駆けて日本で始まり、現在広く普及するに至っています。脳ドックの目的は、まだ症状を出していない段階での脳の病気や、放っておくと将来発症するであろう脳の病気の危険因子を発見し、それらの発症あるいは進行を防止することにあります。

 当院では0.5テスラ(常伝導) MRIにより1993年4月から脳ドックを開始し、2002年12月までに1,283人の方が、1,432回の脳ドックをお受けになり、248人(19.3%)に病気が発見されました(初期の脳ドック)。

 2003年1月からは最新の1.0テスラ(超伝導) MRIにより2007年12月までに1,129人が1193回の脳ドックをお受けになり、415人(36.8%)に病気が発見されました(現在の脳ドック)。MRIの性能の向上と比較的高齢者の方の受診の増加により、年々病気の発見率が高くなっています。発見された415人の方の病気の主なものは次の通りです。

 その他に、くも膜のう胞3例、頭蓋骨および脳腫瘍3例、血管腫など3例、内頸動脈欠損症・脳梁形成不全(生まれつきの形成障害)おのおの1例を認めました。

脳ドックで発見される代表的な異常とその対策

◆ 無症候性脳梗塞

 無症候性脳梗塞はかくれ脳梗塞とも言われ、脳の細かい血管が知らず知らずの間につまって、小さな梗塞(脳細胞が死んだあと)があちこち増えていく病気です。頭重感・めまい感などの自覚症状や、軽度のうつ状態・物忘れの症状がでることもありますが、言語障害や手足の麻痺などの神経症状を認めない脳梗塞で、隠れた状態にあることから名付けられました。

 1,129人中302人(26.7%)に無症候性脳梗塞が認められ、最も多いMRI画像上の異常です。ただし近年では脳の老化現象の一つとも考えられ、60歳代後半からちょっと出る分においてはあまり病気とは考える必要はありません。出始める年代と、画像上の程度(軽度〜重度)が重要です。

 無症候性脳梗塞は動脈硬化(血管の老化)が関係すると考えられ、動脈硬化の促進因子(高血圧症、脂質代謝異常症、糖尿病、肥満、喫煙、過度の飲酒など)を調べる事が重要です。特に関係の深い因子としては、加齢と特に高血圧症が知られています。無症候性脳梗塞のある方とない方について、その後の脳卒中の発症を調べた追跡報告があります。ある方はない方の10〜13倍の頻度で脳卒中が発症していました。脳卒中の予防の点から、無症候性脳梗塞を脳卒中の危険因子の1つとして考え、動脈硬化の促進因子があればその治療をおこない(たとえば高血圧があればその治療)、定期的にMRI検査で画像上の進行がないかどうか検査する必要があります。また無症候性脳梗塞が進行して脳血管性認知症になる場合があることも知られており、同様にMRI画像の注意深い経過観察や、場合によって抗血小板剤の内服が必要となることがあります。

◆ 脳動脈瘤

 1,129人中79人(7.0%)に脳動脈瘤が発見されました。脳動脈瘤とは脳の血管にできた「こぶ」であり、破裂するとくも膜下出血を生じる病気で、最も恐ろしい脳卒中と言われています。くも膜下出血になると3人に1人は即死し最終的な死亡率はいまだに約50%と高く、助かったとしても高率に後遺症が残る可能性があるためです。MRI脳血管撮影(MRA)により脳の血管を写すことで、その部位、大きさ、形が診断されます。特に大きさと形が重要で、最大径が1〜3mmくらいの小さな動脈瘤や、きれいな丸いドーム状の形は破裂の危険はほとんどありません。最大径が5mm近くまで育った動脈瘤や不規則ないびつな形のものは破裂の危険性があり、積極的に治療が勧められます。治療の基本は手術(開頭術、血管内治療)であり、内科的には治すことは出来ません。動脈瘤は時間経過と共に少しずつふくらむ(育つ)ため、小さな動脈瘤は経過観察が重要です。小さすぎても実は治療はできません。くも膜下出血の危険因子(高血圧、喫煙、過度の飲酒)の管理をしっかり行い、半年から1年に1回のMRA検査により経過観察を行うことが重要です。

◆ 脳主幹動脈狭窄症、内頸動脈頸部狭窄症

 1,129人中34人(3.0%)に脳主幹動脈狭窄症(頭蓋内の血管)、26人(2.3%)に内頸動脈頸部狭窄症(頭蓋外の血管)が認められました。全てを合計すると、61人(5.3%)に無症候性(特に症状がない)血管狭窄がありました。やがてつまって脳梗塞の発作や脳血管性認知症をおこす一歩手前の状態と考えられ、動脈硬化促進因子の管理や治療、狭窄の程度によっては、抗血小板剤(血をさらさらにする薬)の内服や手術(外科的、血管内治療)も考慮されます。

◆ 脳腫瘍、骨腫瘍、血管腫(血管奇形を含む)

 1,129人中6人(0.5%)に腫瘍性疾患(ゆっくり成長、やがてなんらかの症状を出す)、あるいは血管腫(多くは生まれつき、症状が出ないことも多い。時に頭痛、てんかん発作、脳出血などを起こす)が認められました。いずれの病気も、定期的なMRI検査で経過をみるか、場合によって外科的に手術あるいは放射線治療が必要になることがあります。

◆ まとめ

 さまざまな脳の病気があるなかで、現代の医療レベルにおいてはかなりの部分において、ほうっておくと将来病気として発症するかどうか予想ができるようになりました。その中で特に脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)は日本の死亡原因の第3位、入院原因の第2位、寝たきり原因の第1位(約40%)を占める重大な病気です。また近年寿命も延びるなか、いわゆる認知症を患う方も明らかに増えてきています。どのような脳の病気であっても一度発症すると、患者さんご自身も支える家族の皆さんも長期にわたって大変な思いをしなくてはなりません。健やかに長生きするために、なるべく早い段階で病気のもとを発見し、病気として発症させないということがとても大切です。脳の病気の大部分は後天的(生まれつきではない)であり、その原因(病気のもと)のかなりの部分に動脈硬化(血管の老化)が関係します。動脈硬化を促進する原因もはっきりとわかってきており、それらの積極的な治療によって、実は、脳の色々な病気が予防できるといっても過言ではありません。

 ぜひたくさんの皆さんに当院で脳ドックを積極的に受けていただき、脳卒中や脳血管性認知症の予防につながれば、私どもとまこまい脳神経外科職員一同、大変幸いに思います。なお当院での脳ドックは、病院受付でも電話でも予約して受けることが出来ますので、どうぞお気軽にご利用下さい。本州(東京では5〜6万円)と比べて、格安料金(Aコース21,000円、Bコース15,750円)でご用意しております。

【脳梗塞の危険因子】

  • 高血圧症
  • 喫煙
  • 糖尿病
  • 無症候性脳梗塞
  • 高脂血症
  • 無症候性頸動脈狭窄
  • 心房細動
  • 多量の飲酒(60g/日以上)

【脳出血の危険因子】

  • 高血圧症
  • 無症候性微小脳出血
  • 血清コレステロールの低値
  • 多量の飲酒(60g/日以上)

【脳動脈瘤が発見される可能性が高い人】

  • 2親等以内にくも膜下出血の人がいる
  • 1家系に2人以上脳動脈瘤を有する
  • 多発性腎臓嚢腫など

【くも膜下出血を来す危険因子】

  • 過度の飲酒(150g/週以上)
  • 高血圧症
  • 喫煙

※飲酒30gは日本酒1合、ビール大瓶1本、ウィスキーダブル1杯、ワイン300cc