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脳ドックレポート 2006(11号)

 脳ドックは1988年(昭和63年頃)より日本で始まり、現在広く普及するに至っています。脳ドックは無症候あるいは未発症の脳および脳血管疾患あるいはその危険因子を発見し、それらの発症あるいは進行を防止することを目的としています。

 当院では0.5T MRIにより1993年4月から2002年12月までに1283人の方が、1432回の脳ドックをお受けになりました。2003年1月からは最新の1.0T MRIにより2005年12月までに722人が741回の脳ドックをお受けになり、240人(33.2%)に病気が発見されました。性別は男性423人・女性299人、年齢は40歳未満38人(5.3%)、40歳代140人(19.4%)、50歳代228人(31.6%)、60歳代223人(30.9%)、70歳以上93人(12.9%)で発見された240人の病気の主なものは以下のものです。

 その他に頭蓋骨腫瘍・くも膜のう胞各2例、脳腫瘍・海綿状血管腫・血管腫・内頚動脈欠損症各1例でした。

脳ドックで発見される代表的な異常とその対策

◆ 無症候性脳梗塞について

 無症候性脳梗塞は隠れ脳梗塞・潜在性脳梗塞とも言われ、頭重感・めまい感などの自覚症状・軽度のうつ状態・物忘れの症状はありますが、一過性脳梗塞(一過性脳虚血発作:TIA)を含む脳卒中の既往がなく、言語障害・身体麻痺などの局所神経症状を認めない脳梗塞です。

772人中188人(26.0%)に無症候性脳梗塞が認められました。年齢別に見ると40歳未満2人(5.3%)、40歳代8人(5.7%)、50歳代40人(17.5%)、60歳代83人(37.2%)、70歳以上55人(59.1%)と加齢と共に増加していました。

 加齢と高血圧が、無症候性脳梗塞と関係の深い因子として知られています。無症候性脳梗塞のない方とある方について、その後の脳卒中の発症を調べた報告があります。ある方はない方の10〜13倍脳卒中が発症していました。当院では脳卒中の予防の点から、無症候性脳梗塞を脳卒中の危険因子の1つとして考え、動脈硬化の危険因子(高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、過度の飲酒、喫煙 など)と共に治療及び経過観察を行っています。

 また無症候性脳梗塞のない方とある方、脳血管性痴呆の脳血流量の比較、および久山町研究では無症候性脳梗塞の中で最もよく見られる多発性小梗塞が脳血管性痴呆の発生に密接に関連した因子と言われています。無症候性脳梗塞を放置しておくと、将来脳血管性痴呆へと進展する可能性があるかもしれません。

◆ 無症候性頸部・脳主幹動脈狭窄および閉塞について

 内頚動脈頸部狭窄症15人(2.1%)、脳主幹動脈狭窄症21人(2.9%)に見られました。専門医による注意深い評価(狭窄度、頸部血管超音波検査、脳循環検査など)が勧められます。動脈硬化の危険因子の管理の他、症例に応じて薬物治療、外科的治療を検討します。

◆ 無症候性未破裂脳動脈瘤について

 脳動脈瘤の破裂によって起こるのが、くも膜下出血です。脳動脈瘤は内科的治療で治療できません。原則として外科的治療(開頭手術あるいは血管内手術)を検討します。35人(4.8%)39個無症候性未破裂脳動脈瘤が発見されました。部位は内頚動脈25個、中大脳動脈9個、前交通動脈5個で、その大きさは1mm:1個、2mm:19個、3mm:15個、4mm:3個、9mm:1個と38個が5mm未満の小さな動脈瘤で、くも膜下出血の危険因子(高血圧、喫煙、過度の飲酒)の管理を指導し、半年に1回のMRI脳血管撮影(MRA)により経過観察中です。9mm:1個の動脈瘤は手術的治療を考慮中です。

◆ 脳卒中の危険因子について

 脳卒中を予防するには脳卒中を起こしやすくする因子(危険因子)を知ることが大切です。危険因子をコントロールして、脳卒中にかからないようにしましょう。危険因子の中には年齢、性別、家族歴などの修正不可能な因子と、以下のような修正可能な因子があります。

【脳梗塞の危険因子】

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 高脂血症
  • 喫煙
  • 不整脈(心房細動)
  • 肥満
  • 無症候性脳梗塞
  • 無症候性頚動脈狭窄
  • 多量の飲酒(60g/日以上)※
  • 血漿フィブリノゲン高値
  • 高ホモシステイン血症
  • 高リン脂質抗体症候群
  • 高ヘマトクリット血症

【脳出血の危険因子】

  • 高血圧
  • 無症候性微小脳出血
  • 血清コレステロール低値
  • 多量の飲酒(60g/日以上)※

【くも膜下出血を来す危険因子】

  • 喫煙
  • 高血圧
  • 過度の飲酒(150g/週以上)※

※ 30gは日本酒1合、ビール大瓶1本、ワイン300ml、ウイスキーダブル1杯に相当する。

【脳動脈瘤が発見される可能性が高い対象者】

  • 2親等以内(祖父母、両親、兄弟)にくも膜下出血の人がいる
  • 1家系に2人以上の脳動脈瘤を有する人がいる
  • 特殊な病気の多発性腎臓のう胞、線維筋性形成異常性、マルファン症候群、エーラース・ダンロス症候群、弾力線維性偽黄色腫の人