21世紀の医学・医療に求められるのは発病・診断・治療の医学から予知・予防の医学といわれています。脳ドックは1988年(昭和63年頃)より日本で始まり、現在広く普及するに至っています。脳ドックは、無症候あるいは未発症の脳および脳血管疾患あるいはその危険因子を発見し、それらの発症あるいは進行を防止することを目的としています。
当院では0.5T MRIにより1993年4月から2002年12月までに1283人の方が、1432回の脳ドックをお受けになり、248人(19.3%)に病気が発見されました。2003年1月からは最新の1.0T MRIにより2006年12月までに907人が971回の脳ドックをお受けになり、318人(35.1%)に病気が発見されました。MRIの性能の向上、高齢者受診の増加により発見率が高くなっています。性別は男性555人・女性352人、年齢は40歳未満49人(5%)、40歳代168人(19%)、50歳代301人(33%)、60歳代274人(30%)、70歳以上116人(13%)で発見された318人の病気の主なものは以下のものです。
その他にくも膜のう胞3例、頭蓋骨腫瘍、脳腫瘍・海綿状血管腫・血管腫・内頸動脈欠損症・脳梁形成不全おのおの1例でした。
無症候性脳梗塞は隠れ脳梗塞・潜在性脳梗塞とも言われ、頭重感・めまい感などの自覚症状・軽度のうつ状態・物忘れの症状はありますが、一過性脳梗塞(一過性脳虚血発作:TIA)を含む脳卒中の既往がなく、言語障害・麻痺などの局所神経症状を認めない脳梗塞です。
907人中243人(26.9%)に無症候性脳梗塞が認められました。年齢別に見ると40歳未満2人(4.1%)、40歳代10人(5.9%)、50歳代58人(19.3%)、60歳代105人(38.3%)、70歳以上68人(58.6%)と加齢とともに、増加していました。
加齢と高血圧が、無症候性脳梗塞と関係の深い因子として知られています。無症候性脳梗塞のない方とある方について、その後の脳卒中の発症を調べた報告があります。ある方はない方の10?13倍脳卒中が発症していました。当院では脳卒中の予防の点から、無症候性脳梗塞を脳卒中の危険因子の1つとして考え、動脈硬化の危険因子(高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、過度の飲酒、喫煙など)と共に治療および経過観察を行っています。
また無症候性脳梗塞のない方とある方、脳血管性痴呆の脳血流量の比較、および久山町研究では無症候性脳梗塞の中で最もよく見られる多発性小梗塞が脳血管性痴呆の発生に密接に関連した因子と言われています。
無症候性脳梗塞を放置しておくと将来脳血管性痴呆へと進展する可能性があるかもしれません。
内頸動脈頸部狭窄症20人(2.2%)、脳主幹動脈狭窄症29人(3.2%)、脳主幹動脈閉塞症1人(0.1%)に見られました。専門医による注意深い評価(狭窄度、頸部血管超音波検査、脳循環検査など)が勧められます。動脈硬化の危険因子の管理の他、症例に応じて薬物治療、外科的治療を検討します。
脳卒中は日本の死亡原因の第3位(単一臓器の病気としては第1位)、入院原因の第2位、寝たきりの最大原因(4割)を占める重大な病気です。最近の脳卒中データバンクでは脳梗塞80%、高血圧性脳出血などが15%、脳動脈破裂などのくも膜下出血が5%を占めています。脳卒中を予防するには脳卒中を起こしやすくする原因(危険因子)を知ることが大切です。
危険因子をコントロールして、脳卒中にかからないようにしましょう。危険因子の中には年齢、性別、家族歴などの修正不可能な因子と、以下のような修正可能な因子があります。
【脳梗塞の危険因子】
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【脳出血の危険因子】
【くも膜下出血を来す危険因子】
※ 30gは日本酒1合、ビール大瓶1本、ワイン300ml、ウイスキーダブル1杯に相当する。 |
【脳動脈瘤が発見される可能性が高い対象者】
特に細い血管がつまるラクナ梗塞と脳出血は高血圧が、太い血管がつまるアテローム血栓性脳梗塞では糖尿病、高脂血症が重要です。心臓内にできた血のかたまりが脳の血管に流れつまる心原性脳塞栓症では心房細動が重要です。
【脳梗塞高危険群】
※1 見た目でわかる無症候性脳梗塞(水戸黄門症候群)